木毛(もくめん)づくりの理念は愛②

障がい者に対する指導方法で課題が浮かび上がります。

両親は製造責任者であったと同時に、障がい者に対し、時に優しく、時に厳しく丁寧に指導していました。

そんな両親も高齢になり、引退した後、主人や私は製造にタッチしない状況の中、現場での指導は社員達に任せていましたが、納期が迫る慌ただしい現場で、できない事を攻めたり、怒ったりしてしまう場面が増えていきました。

任された社員は頑張ってくれていましたので、私は自分の指導力のなさを痛感します。

雇用をしたからには、この会社で働いてよかったと思ってもらいたいし、明るく笑顔で働いて幸せになってもらいたい。怒られてばかりの会社がいい会社といえるはずがない。

私は、衰退する木毛の売上げを増やすことや、利益を出す事に精一杯でしたが、父が築いてきた、多様性を認め合い、お互いを尊重し合うという企業文化を継承する、父のイズムを引き継ぐことが大切だと気が付きます。

そのためには何が必要か。

考える日々が始まります。

そんなある日、当時高校2年生で演劇部に所属していた姪から、高知県の演劇大会があるから、見に来て欲しいと言われ、出かけて行きました。

劇が始まりました。

ある会社の専務役の姪が登場します。

専務のところに、障害者施設の先生がやってきて障害者を雇って欲しいというシーンからスタートします。

どんな劇なのか、何も聞かされていなかった私は驚きました。

障害者雇用の話?

しかも戸田商行の障害者雇用の始まりと一緒じゃないか。

その劇は、日本理化学工業が障害者雇用に取り組んだ実話劇でした。

日本理化学工業は神奈川県川崎と北海道に工場があり、従業員は合わせて84名、うち62名が障がい者で彼らが生産面で頑張り貴重な戦力になっているチョーク生産では国内のシャアトップを占める会社です。

日本理化学工業は法政大学に在籍されていた坂本教授が書かれた、日本で一番大切にしたい会社という本に登場し、カンブリア宮殿やその他マスコミにも取り上げられ、渋沢栄一賞も受賞した、社会貢献の高さで非常に注目されている会社ということが後で分かりました。

劇では昭和32年「就職できないと施設で一生すごすことになる」と、先生が熱心に採用をお願いします。

当初は障害者と一緒に働くことに不安を感じていた大山専務でしたが、かわいそうだからとの同情で、昭和35年に採用をします。

採用の当初は、障害者とどのように接すればよいのか分からず、戸惑う社員達、15歳で擁護学校を卒業したばかりのあどけなさの残る女の子たちの働く姿に、社員は「私たちがめんどうをみますから、あの子達を雇ってあげてください」と大山専務を説得します。大山専務は承知したものの、全面的にお任せを決め込みます。

ただ、胸に引っかかるものがありました。

ちゃんと大切に面倒をみてくれる施設があるのに、わざわざうちのような工場で1日中働かせることに、どこか申し訳ないような思い。

大山専務が禅寺の法事に出席した際、ご住職と隣合わせになり、悩みを打ち明ける場面。

大山専務役の姪が住職役の生徒に語りかけます。

「当社には字も読めない重度の知的障害が働いているのです。私からすればむしろ施設で大事のに面倒をみてもらった方がずっと楽なのに、なぜ毎日会社に来るのか不思議なんです」

すると住職役の生徒が

「人間の幸せは、ものやお金ではありません。人間の究極の幸せは次の4つです。その一つは、愛される事、2つ目はほめられる事、3つ目は人の役に立つ事、そして最後は人から必要とされる事なのです。あなたがいないと困るなんて、言ってもらえないでしょう。会社であればこんな雨の中きてくれてありがとう、昨日よりもたくさん作ってくれてありがとうなどど声をかけられる、この事が人間としてうれしい、幸せだから毎日会社に来るのです。

会社が人間を幸せにしてあげられるのです。」

私は驚き、感動で、放心状態になりました。

ありがとうや、助かったよと声をかけられても、そこに人間の究極の幸せが存在していることを意識することはありませんでした。

健常者にとってはあたり前すぎて気づくこともできない幸せ。

戸田商行が障がい者を雇用している意味がはじめて分った気がしました。

私はずっと日本理化学工業を訪問したいと思っていましたが、2016年、念願が叶い会社を見学をさせて頂きました。のちに会長となられた大山さんは、残念ながら今年ご逝去されましたが、その頃はまだお元気で、その日は見学者のためにお話しをして下さいました。

ご自身の障害者雇用に対するご意見をお話し下さり、障害者でも作業に迷いがないように、工夫された治具や掲示物がある工場の見学にお付き合いくださり、今ある理解力で仕事ができるようにしてあげると、役に立っている幸せを感じ、集中して一生懸命仕事する、ということをご説明下さいました。

私は、重度の障害を持ちながら、障害を全く感じさせることなく、いきいき働きと働く社員の姿に感動を覚えました。

日本理化学工業を訪問して一番強く感じた事は、障がい者というのを決めているのは、私達のほうではないかという事でした。

会社が、彼らの理解力の中で、安心して作業できる環境を作り、適正にあった仕事を見つける事ができれば、こんなにいきいきと働ける。

その事実を目のあたりにした貴重な体験でした。

目からうろこ、うろこ。

次回に続く。

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